2025-12-29 HaiPress
〈法廷の雫〉
2024年6月の夜、東京都足立区の道路をタクシーで走っていた運転手の男(63)は、意識がもうろうとしていた。前方で信号待ちをしていた高齢男性が乗るバイクにブレーキをかけないまま衝突し、胸の骨を折る重傷を負わせた。
低血糖の症状だった。男は30代で免疫異常による1型糖尿病を発症し、治療のため日常的にインスリン注射が必要だった。特定の病気の影響で、正常な運転に支障が出る恐れがあると分かっていながら運転し、けがをさせた場合に問われる自動車運転処罰法違反(危険運転致傷)の罪で起訴された。
東京地裁で行われた公判では「事故を起こす可能性を認識していなかった」として無罪を訴えた。

事故現場近くの道路=10日、東京都足立区で(三宅千智撮影)
男の証言は、業界ならではの長時間で不規則な労働実態を浮き彫りにした。被告人質問で検察官が勤務時間を尋ねると、男は「午前8時から翌日の午前3時半」と答えた。客が多い時間帯には食事は取らず、血糖値の管理は容易ではない。「売り上げのため」と、病気を抱えながら運転を続けてきた。
弁護側が、運転中に低血糖の症状を覚えたことはあったかと聞くと「10~20回くらい」と説明。車内に常備していたミルクティーを飲み、糖分を摂取して回復していたという。検察側によると、事故直前に乗車した親子連れは、対向車線にはみ出したり何度も急ブレーキを踏んだりする運転に身の危険を感じ、目的地に着く前に降りた。
男...
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